予算委員会の質疑録です。

参議院議員 牧山ひろえ 予算委員会 2010.3.16
予算委員会 牧山ひろえ
○牧山ひろえ君

 民主党の牧山ひろえです。どうぞよろしくお願いいたします。
 本日は、大変興味深いお話ありがとうございます。
 また、日、米、アジアにおける安全保障の着眼点について大いに参考になりました。白石参考人がおっしゃる日米同盟を軸とした東アジア経済圏における日米の役割、また志方参考人がおっしゃる極東平和を構築するための日本の役割については大変勉強になりました。
 さて、私は、安全保障について別の観点から御質問させていただきたいと思います。
 京都が空襲されなかった理由は、重要文化財がたくさんあるからというのも理由の一つであることを聞いたことがございます。私はこれを聞いて、国の魅力を生み出し伸ばすことによって安全保障が担保されるということも一理あるのかなと思いました。
 日本がアジアの中の経済大国と位置付けられた時代もありましたが、今や中国に追い抜かれ、別の形でリーダーシップを発揮することが求められているのではないかと思います。日本の場合、その一つがコンテンツビジネスという意味でのソフトパワーだと思うんです。
 例えば、コンテンツビジネスも日本の現在の強みであり、知的財産保護もアジアの中ではリーダーシップを取れる立場にあると思います。科学技術からアニメのコンテンツまで、日本の強みを全面的に出してリーダーシップを取ることが、日本という国の世界の位置付け、重要度を高めることにつながり、やがては安全保障につながる一つの要因でもあるのではないかなと思うんですが、御意見を伺いたいと思います。
 日本におけるコンテンツビジネスという意味でのソフトパワーによる安全保障について、白石先生そして志方先生の両先生に御意見を賜りたいと思いますが、まず白石先生からよろしくお願いいたします。

○公述人(白石隆君) どうもありがとうございます。

 安全保障、実は安全保障において今起こっております非常に重要な現象というのは、陸海空に加えて、宇宙それからサイバーにおける安全保障というのが非常に重要になっております。ですから、コンテンツビジネスというよりも、そのベースになっているようなITの産業力それから科学力というのは、これは安全保障にとっても極めて重要でございます。
 今先生が御指摘になりましたコンテンツビジネスというのは、安全保障の方にももちろんですから引っかかりはございますが、実は東アジア共同体構築ということではこれは非常に重要でございまして、先ほど少し私時間がなくてきちっと御説明しませんでしたけれども、これから二十年ぐらいのアジアを考えますと、先ほども申しましたけれども、都市の非常に高い教育を受けたプロフェッショナルの中産階級の人たちというのが、これがこの地域の政治、経済、ましてや安全保障まで含めて、ビジネスも含めて動かしていくことになると思います。そういう人たちが納得するようなそういうコンテンツ、あるいはそういう人たちが本当に欲しいと思うようなライフスタイル、そういうものを我が国が生み出すことが、日本の繁栄にとっても、日本のリーダーシップ、特にソフトパワーにおけるリーダーシップにとっても非常に重要だろうというふうに考えます。

○公述人(志方俊之君) 先生がおっしゃるとおり、コンテンツビジネスといいますかソフトパワーですね、それによって国の安全を、の守る一助にするということは当然あるべきことだと思います。冒頭に私が申し上げましたように、防衛というのは軍事力だけでやるものではなくて、その国の安定だとか、そういうこともあります。
 ただ、我々が防衛力整備を計画するときには、やっぱり脅威というものをまず設定しないとできません。その脅威を設定するときには、相手の能力、ケーパビリティーですね、それから相手がどういう意図を持っているか、インテンション、それから相手が、国際情勢がどういうサーカムスタンスにあるかという、この三つの掛け合わせで来るものであります。
 そのときに、やはり防衛を考えるときには、インテンションというものを仮定してはならないということですね。京都は爆撃しなかったけれども、東京を爆撃した米軍も皇居や明治神宮や靖国神社は爆撃しませんでした。これは、占領した後のことを考えたのだと思うんですね。ですから、相手の意図というものを防衛のときに仮定して、それに我が国の命を懸けるのはまずいんではないかと。もちろん、そういうソフトパワーというのも必要ですね。だけれども、ソフトパワーだけで国家は守れないということもまた事実であります。
 したがいまして、私は、防衛というのはやはり有事にどうするかということを考えることでないと、有事があるのかないのかと、ないものになぜ備えるという話になると、それはもう全然混乱してしまうので、もし日本が平和を求めて求めて求めていっても、なおかつ我々が防衛力を使わざるを得ないという状態になったときにはどうするかという話であります。
 そういう意味で、例えば相模原の駐屯地だとか、米軍の基地ですね、見たらペンペン草生えています。横田もそうです。だから、嘉手納も普天間を持っていったらいいんじゃないかと思うぐらい日ごろは静かです。だけれども、有事が近づいたらもう嘉手納も相模原も兵器でいっぱいになるわけですね。そのことを情勢を考えながらやらないと、普天間の嘉手納移設なんていうことはあり得ないんですね。
 そういうことを考えますと、やはり防衛を考えるときはソフトパワーとハードパワー両方考えると。そのハードパワーは、有事におけるハードパワーの運用ということを考えてやっていただくのがいいのかと思います。

○牧山ひろえ君

大変興味深い御意見、ありがとうございます。
 APECがこの秋横浜で開催されます。今や世界経済のトップスリーであるアメリカ、中国、日本が同席する良い機会であり、二月二十二日に実務者協議が開催されテーマの選定作業が行われるなど、今本番へ向けて機運が高まっているところでございます。
 私は、一時期企業の法務、特に知的財産関係の職務に就いたことがありますので、アジアにおける知的財産権問題について白石参考人にお伺いしたいと思います。
 アジアでは、CDやDVDの海賊版など、知的財産侵害事件に対する対応においてまだまだ不十分な状況でございます。中国やベトナムなどはWTO加盟のために知的財産権関連の法制度を一応整備したように見えますが、特許権などの出願に対する審査や侵害案件に対する執行可能性の点において人材が育っておりません。また、法制度を実施するインフラが不十分であることなどから、知的財産権の権利取得や権利保護がうまくいっておりません。また、インターネットの普及により知的侵害は特にコンテンツの分野においてボーダーレスとなっております。
 例えば、特許の分野では、日米欧の三極の特許庁など所轄官庁が緊密な協議を行い、特許制度の運用や特許権などの保護において協力し合っております。日本がリーダーシップを取ってこういった知的財産保護に関する国際協力の体制を整えることも考えられます。
 営業秘密、いわゆるトレードシークレットなどの技術流出も深刻な問題でございます。日本においては、不正競争防止法において営業秘密の保護が図られていますけれども、日系企業の海外進出に伴って日本からの技術流出が増えております。技術流出の形態は、意図的な技術情報の持ち出しや技術者の転職、またMアンドAに伴うなど、幾つかのタイプがございます。技術流出に対する懸念は、日本に限らず、例えば韓国では産業技術の流出防止や保護に関する法律、いわゆる産業技術流出防止法というのがございまして、これを制定して国家が技術流出の防止に積極的に関与する法制度を整えております。
 このような状況、また動きについて何か御意見ございましたらお聞かせいただきたいと思うんですが、白石参考人のこれまでの御経験から、特に東アジア、中国における知的財産権の問題をいかにして解決していくべきなのか、何かお知恵、御意見などございましたらお聞かせいただきたいと思います。

○公述人(白石隆君) どうもありがとうございます。非常に重要なポイントだと考えます。

 おっしゃるとおり、例えば二年ほど前のデータになりますけれども、DVDだとかCDだとかコンピューターゲームだとか、そういうものの中国あるいは東南アジアの一部地域における海賊版の比率というのは八〇%以上だとか九〇%以上と。つまり、普通に買うと大体海賊版を買ってしまうという、そういう状況でございます。
 ですから、これは非常に深刻な、ビジネスにとっては深刻な問題で、少なくとも二つのことはすぐにもやれますし、それから現に国としてもやっているところがございます。
 その一つは、東アジアの例えばASEANプラス3だとかASEANプラス6だとか、そういうマルチの場で、ピアプレッシャーとでも言うんでしょうか、要するにそういうことはしないようにという一種の紳士協定を一つでも多く作って、それを圧力にしてともかく国の中でもそれをやってもらうように仕向ける。余り効力はございませんが、そういうピアプレッシャーは一つございます。
 それからもう一つは、先生御指摘のとおり、キャパシティービルディング。というのは、これは非常に重要でございまして、実はこういうキャパシティービルディングの協力というのはお金も余り掛かりません。ですから、ODAといったときに、箱物というのは随分お金が掛かりますし、そういうのが必要なところももちろんいまだにあるんですけれども、こういうキャパシティービルディングのようなところに、あるいは教育のようなところというのは、実はこれからの日本のODAの在り方としては非常に重要だろうと思っております。
 ただ同時に、実際問題としてやっぱり知財ということが実効的に運用される法律体制ができるには、それぞれの国の中でそれに利益を持つ産業、企業が生まれてこないとなかなかそのオーナーシップというのは生まれてこない。だから、その意味で非常に逆説的なんですけれども、例えば日本の企業が中国に進出し、コンテンツビジネスの企業が中国に進出し、向こうでジョイントベンチャーをつくって、そういうものが向こうの中国で重要になってくると、そうすると中国の国、政府もその言うことを聞くようになってくるという、そういう少し長い目で見た知財戦略というのが必要ではないだろうかというふうに考えております。
 少し知財とは違うんですが、もう一つ是非この機会に述べさせていただきたいことは標準化ということでございます。
 例えば現在、環境、エネルギーにおいて我が国でもグリーンイノベーションということが言われるようになり、私も総合科学技術会議の議員としてグリーンイノベーションにかかわる科学技術政策ということに取り組んでおりますけれども、これは日本だけではなくて、アメリカもEUも韓国もシンガポールもみんなやっております。
 そういうところでどういうスタンダードをつくるかと。例えば、電気自動車とそのインフラのためにどういうスタンダードをつくっていくかということは、このスタンダードをどこがつくるかによって相当その優劣が決まってまいります。EUはこれを法的に作ろうとしていますし、一方、アメリカはこれをデファクトにやろうとしていると。日本がどういう戦略を取るかということが極めて重要な局面になっておりますので、是非この辺りのことごとも、先生方、是非考えていただければと思います。

○牧山ひろえ君

 御意見ありがとうございます。

 先ほど、コンテンツビジネスにおいてこそ日本がリーダーシップを発揮して安全保障の重要な要因につなげていくべきだというお話をさせていただきました。
 日本の企業の九割以上を占める中小企業の中には、例えば、国際競争力のある優れた技術を持っているけれども海外に販路の開拓をする人材がいなくて海外展開できない中小企業、あるいは、近い将来世界標準になるであろう優れた技術を持っているけれども特許を取得して事業展開するための人材がいない中小企業など、いわゆる事業拡大を逸している中小企業が日本にたくさんあると思います。成長性のある中小企業に対して金融面、知的財産経営、海外進出において更なる公的な支援を行って将来の日本経済を背負う企業へと育てることが重要であると考えております。
 私としましては、在外公館、例えばアジアには二十一件ございますけれども、こうした施設などを活用して日本企業の海外進出を支援するために、コンテンツビジネスを始め日本の食文化、安全な日本の食材ですとか、日本の伝統工芸品などの地域の名産品、ファッションなどを紹介する取組をするべきだと思います。
 白石参考人はメコンデルタを始めとした東アジア圏の諸事情に大変お詳しいと思いますので、是非御意見をお伺いさせていただければと思います。

○公述人(白石隆君) どうもありがとうございます。

 今先生が御指摘になった点も非常に重要な点でございまして、実際には私、実はジェトロ、アジア経済研究所の所長もしておりますけれども、ジェトロの方ではこの東アジアの地域におけるコンテンツビジネスの推進、日本企業の活躍の支援ということを現にやっておりまして、私も例えばバンコックなんかではそのジェトロの活動ということを見たことがございますけれども、非常に正直申しまして評判のいい活動をしているというふうに考えております。
 これもせっかくの機会ですので是非申し上げさせていただきたいと思いますが、実は、日本のコンテンツビジネスだけではなくて、例えば音楽、ポップミュージック、それから映画、ファッション、それから料理、コンピューターゲーム、こういうものの人気というのは、これは東アジアでは大変なものがございます。それから、それ以外にも、アメリカだとかフランスだとかというところでも非常に大きな影響を持っております。
 ところが、私、東南アジアに行きましてよく言われることは、例えば日本のファッションの学校で勉強をしたいんだけどどうしたらいいかと言われると、私はそれは無理だと言うんですね。なぜかといいますと、専門学校に留学したいといっても今ほとんどビザ下りません。まして、例えば日本で料理の勉強をしたいといって高校卒の人が日本の専門学校に受け入れられるかというと、これもビザは恐らく下りないと思います。
 その意味で、実はこういう日本の持っているソフトパワーをもっと勉強したい、学びたいという人いっぱいおりますので、こういう人を日本に受け入れると。それで、そういう人たちがまた、そのまま優秀で日本でビジネスするのもいいですけれども、国に帰って、そこで日本のファッションを受け継いだデザイナーになるだとかシェフになるだとかということが、実は日本のコンテンツビジネス、あるいはもう少し広く文化産業というのを広めていく大きな力になるだろうと考えます。
 例えば、これは先生御存じだと思いますけれども、例えば日本のコンピューターゲームというのは、これはやっぱりいまだに非常に競争力ございまして、実は私の息子の一人がこの分野で仕事をしているんですけれども、MITの卒業生がインターンシップで日本のそういう企業で働いてみたいなんという、そのくらいの影響力を持っている分野もございます。
 ですから、この辺は、余り日本が外に売り出すということよりも、少し広めに構えて、人も呼んできて育成しようと、それが、先ほどの防衛力の基盤整備と同じですけれども、二十年後、三十年後に実は日本のアセットになるんだと。そういう形で是非考えていただければと思います。

○牧山ひろえ君

私も今の御意見に同感です。いろいろ、日本のコンテンツですとかファッションですとか、いろいろ日本に興 味を持っている方をどんどん受け入れる体制も考えなくてはいけないなと思っております。
 もう一つ白石参考人にお伺いしたいんですが、ちょっと話題を変えまして、例えばベトナムにおいて、日本はODAによる経済援助やJICAによる法整備支援の分野でベトナムにかなり貢献してきておりますけれども、経済的には貢献に見合った成果が必ずしも上がっているとは言い難いと思います。実際、経済的には、アメリカですとかオーストラリア、韓国などが積極的に投資、企業進出を行っているのに対して、日本は投資後退の傾向が見られます。せっかく日本が国の発展に寄与してきたのに、その果実はほかの国に取られているように思えます。
 ベトナムとは昨秋、EPAが発効したことでもあり、これを活用し、企業の積極的展開を国としても支援できればと考えておりますが、白石参考人、是非御意見を賜りたいと思います。

○公述人(白石隆君) どうもありがとうございます。

 ベトナムに限らず、日本のODAの効果というのをどう測るかというのは、これはなかなか難しいところがございまして、例えば日本は今、実はASEANの中では、私の理解ではベトナムというのは非常に重視している国だろうというふうに理解しておりますけれども、それで直ちに日本の例えば民間の企業が直接投資を増やすということでは必ずしもございません。
 あるいは、現在、日本のODAも含めてベトナム政府がやっているインフラ整備がある程度進んだところで、例えば日本の経済の状況が良くなれば、国際的に競争力のある企業がもう一度進出するとか、そういうことがよくございます。ベトナムの場合も、ですからその意味で、少し効果ということを考えるときには長い目で見た方がいいんではないだろうかと考えます。
 ただ、同時に、ベトナムにおける日本の支援ということから考えまして、やはり効果ということを考えますと、直近のところで非常に重要なのは、原子力発電所とそれから新幹線の整備その他のベトナムにおけるインフラ整備に日本の企業がどのくらい関与できるのかということでございまして、そのためには、私としては、国としても、例えば原子力発電所の受注というのは、これは国としてかなり広範なパッケージを提供しないと実際問題としてなかなか受注はできないと。ですから、その意味で、国としてやはりかなり戦略的にパッケージをつくって、それでODAもその一部になるという、そういう関与の仕方ということを考えていく必要があるんではないかというふうに思います。

○牧山ひろえ君

 最後に、志方参考人にお伺いしたいと思います。

 一九五三年以来、朝鮮戦争は停戦状態にあります。この状態が極東平和を揺るがす事態とならないように注視していかなければなりません。先月、中国胡錦濤国家主席が北朝鮮の高官と会い、中朝関係の更なる深化を表明しましたけれども、このところ中朝関係は冷え込んでいるとの見方が大勢を占めています。
 今後も北朝鮮が孤立、暴走しないよう国際社会が注意していく必要があると考えますが、志方参考人の見解をお伺いしたいと思います。

○公述人(志方俊之君)

 やはり、北朝鮮がソフトランディングするということが北東アジアの安定には非常に重要な要素になると思います。
 考えてみますと、中国はやっぱり北朝鮮と国境を接しておりますし、経済的にも今は非常に関係が深い。そういう意味で、今何か起こっても、非常に中国も困る。恐らく、何かあれば難民が結構中国に入ってくるかもしれませんし。韓国は、今はやはりあの体制のまま一緒になるということは、東西ドイツのような、このぐらいで一緒になったのと違って、もうこのぐらいで一緒になるわけですから、韓国も大変だと。それからアメリカは、中国にげたを預けたというか、中国やってみなさいと。今向こうの方で大変ですから、この辺はやはり六か国協議の枠の中で話し合っていこうという、かなりみんな時間に余裕を持ったような関係だと思うんですね。
 ですから、やっぱり北朝鮮のリーダーシップが変換する、クライシスになるのかかえってきっかけになるのかは知りませんが、そういうときの時間的要素というのがあって、現在は、もう何か揺り動かして何かしてしまおうという国は、ロシアもそうですね、今はもう向こうで精いっぱいですから、こちらの方は安定していたわけで、みんなが安定してもらった方がいいというと、あそこは不安定という名前の安定が今あるという、そういうような感じでありますから、やはり北朝鮮がしっかりとこちらの方を向いてくれるように少し気長にやっていくということですね。余り押さえ付ける必要はないですけれども、彼らが自分で気が付いて少しずつ解けてくるといいますか、そういうのを待った方がいいような気がいたします。

○牧山ひろえ君

時間となりましたので、終わります。